魚の生態は面白い。
例えば、イザリウオ。「躄(いざ)る=膝や尻をついて移動すること、足が立たない人」という言葉から命名された。要するにこの魚、魚なのに泳げない変わったヤツである。魚なのに泳げないということで、何だかハンディキャップを背負っているように感じられるのだが・・・・・
水中での移動は、海底では手足状に発達したヒレを使ってゆっくりと歩く。その様は、まさにイザってるようにも見えるが、イザリウオ自体には何の不自由もない(と思う)。水中では、胸ビレの付け根の穴(鰓穴)から水を噴き出し、そのジェット噴射を器用にコントロールしてあたかもホバリングしているように移動する。その動きはヘリコプターのようでもある。
イザリウオは"釣りをする魚"としても知られている。背びれの前方部の一部が発達して"釣竿"と"餌"を持ち、それを器用に動かして小魚を誘い、丸呑みにするのだ。「釣りをする魚」として知られる大御所アンコウ類などと同じメソッドである。分類上はかなり近縁なようで、兄弟とまではいかないが従兄弟くらいの関係なのかもしれない。
この"釣り"の様子を水槽撮影でフィルム(ムービー)に収めた。犠牲になる小魚(ネンブツダイ)を水槽に入れ、イザリウオに近づくのをじっと待つ。小魚が30cmほどに近づくと、イザリウオの小さな目がグルリと動き、光りを放った。
と・・・イザリウオがスーッと"釣竿"を立て、その先の餌状のビラビラに生命感が吹き込まれ、生きているかのような変則的な動きを見せる。小魚は「ん?」という感じでそのビラビラに興味を示して近づく。距離が詰まってイザリウオの射程内に入ったかなと思った瞬間、小魚の姿はそこになかった。まさに瞬く間の出来事。
スピーディーに動くのは苦手だが、瞬発力には目を見張るものがある。小魚を呑み込む動きは、我々の目では全く捉えられなかった。後でチェックしてみると、1秒に30コマのムービーでは、そのひとコマにようやく写っているという素早さなのだ! イザリウオ、恐るべし(笑)
そんな独創的な世界、独自の境地を切り拓いたイザリウオ。イザっているように見えるからといって、中途半端な憐れみは無用だ。イザリウオは、イザリウオ的世界を完結させた存在であり、イザリウオ以上でも以下でもないし、イザリウオ的誇りや価値観があると思うからだ。これと似たようなマト外れな憐れみが、我々の世界にもあるように思える。残念なことである・・・
#写真は、海藻に隠れて餌の小魚を待つイザリウオの仲間「ハナオコゼ」。教育映画製作のひとコマ / May, 1982 ; Olympus OM-2n+85mm Macro